電機メーカ各社が「レタス」工場を稼働相次ぐ

2014.05.26

カテゴリ:新規事業

富士通が「植物工場」の運営に乗り出す。休眠中の半導体工場を転用し、腎臓病患者が安心して食べられる低カリウムレタスを栽培する。かつて世界をリードした半導体の技術者たちが、今度は「農業の工業化」に挑む。「どうやったらコストが下がるだろうか」――。

舞台は富士通セミコンダクターの会津若松工場(福島県会津若松市)だ。

会津若松工場は半導体事業の主力拠点だったが、事業縮小に伴い、2012年3月に「2番館」と呼ばれる建屋の生産ラインを停止した。今回、その2番館のクリーンルームを野菜工場に転用する。

低カリウム野菜は、カリウムの摂取制限がある透析患者、腎臓病患者も安心して食べられる野菜だ。カリウムは野菜の生育に欠かせない要素で、どの野菜にも含まれる。摂取制限がある人は野菜を湯がいて食べる必要があり、生食は禁物だが、低カリウム野菜ならサラダが食べられる。

富士通によると、国内には透析患者は30万人、慢性腎臓病患者は1330万人。世界には推定6億人の腎臓病患者がいる。低カリウム野菜の潜在市場は大きい。しかも、生産しているのはごく一握りの企業だけで、富士通が参入しても野菜農家の市場を奪うこともない。「会津若松工場の有効活用策になるし、東北の復興支援にもなる」(富士通H&Oの今井幸治社長)と、参入を決めた。

第1弾の量産規模は出荷ベースで1日3500株。1株あたりの作業にかかる工数や時間を減らせば、工場全体では大きな生産性向上になる。

■ITサービス強化にも照準

最大の課題はコストだ。半導体工場は当然ながら、野菜づくりのために設計されているわけではない。低カリウムのリーフレタスは現在、1株480円で売られている。

富士通は昨秋、農業経営を支援するクラウドサービス「Akisai(秋彩)」を始めた。農地での作業実績や作物画像などのデータを保存・分析し、収穫量増加や品質向上につなげるもので、施設園芸を対象にしたサービスもある。会津若松工場の植物工場に導入し、データを蓄積することで「植物工場のレファレンスモデルをつくる」狙いもある。

富士通は農業クラウド関連で15年度までに累計2万件、150億円の売上高を目指す。

だが、4兆円企業の富士通にとって150億円は決して大きな数字ではない。それでもなぜ富士通は農業に入れ込むのか。それは、得意とする企業や官公庁向けの情報システム構築だけでは、中長期的な成長が見込めないためだ。

持続的な成長には、ITの活用が進んでおらず、富士通との接点も少なかった新領域の開拓が欠かせない。そこで医療、教育と並び、ターゲットにあがっているのが農業なのだ。山本正已社長は「市場が一気に立ち上がることはないが、5~10年かけて攻めていけば大きなビジネスになる」と、長期戦を決め込む。

「畑違い」の戦いに挑むのは半導体技術者だけではない。富士通グループ全体なのだ。

富士通ページ:http://journal.jp.fujitsu.com/2014/04/04/04/?gclid=CjkKEQjwttWcBRCuhYjhouveusIBEiQAwjy8IMyQRmxC3EyhQlcdzHf2RkiBYo0WL5OGOLBlqPqkGpvw_wcB

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